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◇感覚2◇

[3] 聞く・聞こえる

   聞こえる 音がする   
     聞く   聞き飽きる 聞き入る 聞き覚える 聞き込む 聞き損なう 聞き出す
        聞き直す 聞き流す 聞き慣れる 聞き逃す 聞き惚れる 聞き分ける 聞き忘れる

[4] におう 
     におう  
     香る
     においがする
     嗅ぐ   嗅ぎ合う 嗅ぎ当てる 嗅ぎ出す 嗅ぎつける 嗅ぎ取る 嗅ぎ回る 嗅ぎ分ける

[5] 痛む

   痛む   がんがんする ずきずきする ちくちくする ひりひりする   
     痛める  痛めつける
     痛がる

[6] 味覚

   味わう     

  

〔3〕聞こえる・聞く
  聴覚に関する動詞を考える。基本は「聞こえる」と「聞く」の2つである。視覚の「見せる」に相
当するのは「聞く」の使役形である「聞かせる」。
  「聞こえる」は、音が耳に入り、それを認識した状態を表す。対応する他動詞「聞く(聴く)」は、
意識的な行動を表す。
    何かの音が聞こえる   ラジオを聴く
 「音がする」は、音が発生し、それを話者がとらえたことを表す。「音が聞こえる」に近いが、聞
き手という主体を除いた、自然現象としての表現になる。
    箱の中で、何か音がする 
  「耳にする」は、「聞く」に近い表現で、何らかの言葉や話を聞いたということを表す。
    最近、こういう言い方を耳にする
◇きこえる
 自然に音が耳に入ってきて、それを感じる状態を表す。感覚の対象を「ものガ」で示す。感覚の主
体を表す場合はニ格で示し、「人ニ ものガ」の形にする。
    (人ニ) ものガ きこえる
    音楽が聞こえる   あなたには音楽が聞こえますか?  
  ガ格が文相当の内容を表す場合、「文のガ」の形をとる。
    子どもが歌っているのが聞こえる
 聴覚が働いていることを「耳が聞こえる」で表す。この「耳が」は感覚の対象ではない。
      年をとって耳が聞こえにくくなった
 「聞く」の可能形「聞ける」との用法の違いが問題になる。(→下の「聞く」の解説)
 感覚による印象と事実が違うことを「ものガ ものニ 聞こえる」の形で表す。
       あの人の物まねはとても上手で、まるで本物に聞こえる。
 同様に、そのような印象を受けるということを「イ形容詞-く」「ナ形容詞-に」の形で表す。
       補聴器を使うと、小さな音が大きく聞こえる
       英語を早口で言うと、上手に聞こえる
 この「上手に聞こえる」の例では、単なる音を聞く感覚の意味から、「言語活動」に関わり、その
内容を聞く用法につながる。
  その他の補助形式の場合。
    にやにやしながら話をすると、ウソっぽく聞こえるよ
       彼女のその日の歌声は、少し疲れているように聞こえた
◇きく
  「聞く」には、主に3つの用法がある。
   感覚的に音を耳がとらえる(「人ガ 音ヲ 聞く」)
   言語を耳でとらえ、その内容を理解する(「人ガ 話・言葉を 聞く」)
   言語活動として、人に質問する(「人ガ 人ニ ものヲ 聞く」)
 ここでは初めの用法のみをあつかう。あとの二つの用法は「言語」でとりあげる。
  まず、単に音をとらえることを表す場合。
   人ガ ものヲ きく
       雨の音・音楽を 聞く
  可能形「聞ける」は「聞こえる」との使い分けが問題になる。「聞こえる」は、「音・声」が耳に
入る、ということを表す。「聞ける」は、状況・条件が可能かどうかということを表す。
       後ろの席では、ギターの音がよく聞こえない。
    こんなすばらしい演奏は、日本では聞けない。
    このラジオで中国のラジオ放送が聞けますか?(条件:ラジオの性能) 
    一応聞けます(ラジオの性能)が、昼間はよく聞こえません。夜は、よく聞こえます。(音が)
       今から帰っても、7時のニュースは聞けない。(状況)
    今日は先生がお休みで、講義が聞けない。
       後ろの席では、先生の声が聞こえない。
 使役形「聞かせる」は、人に聞くようにさせることを表すが、音楽などが素晴らしくて、思わず聞
き入ってしまう、という意味を表す用法がある。
       教師が生徒に音楽を聞かせる
    彼女の歌はなかなか聞かせるね
◇複合動詞
 「聞く」の複合動詞は、「聞き-」が
     (1)感覚で音をとらえる
     (2)言語の内容を理解する
     (3)人に質問する
の3つの意味になりうる。すべての意味で使えるものも多い。ここでは(1)の意味で使えるものをと
りあげる。
 「聞き飽きる」は、何度も聞いて、聞くのに飽きたこと。
 「聞き込む」は、何度も、十分に聞いてよく知っていること。他から情報を聞いて知ること。
    レコードを 聞き飽きる/聞き込む   
 「聞き出す」は、聞き始めること。  
 「聞き慣れる」は、聞くのに慣れること。名詞修飾「聞きなれた~」の形でよく使われる。
    十年前、この音楽を聞きだし、一時期はかなり聞き込んだが、最近は少し聞き飽きてきた
    その土地の方言を聞きなれる
 「聞き入る」は、耳を澄ませて熱心に、あるいはうっとりと聞くこと。 
 「聞き惚れる」は、心を奪われ、うっとりとして聞くこと。 
     美しいピアノの音に 聞き入る/聞きほれる  
 「聞き覚える」は、聞いて覚えること。また、覚えていること。
 「聞きつける」は、音や話を偶然聞いて、関心を持つこと。
     聞き覚えているメロディー    救急車の音を聞きつけて人が集まってくる
 「聞き取る」は、音や言葉を聞いて、正しく理解すること。可能の形「聞き取れる/聞き取れない」
  でよく使われる。
 「聞き分ける」は、いくつかの音や声を聞いて、違いを区別すること。
 「聞き直す」は、もう一度聞くこと。
      音程が聞き取れない  二つの音を聞きわける  もう一度聞き直す
・不十分な聞き方を表す複合動詞を以下にまとめておく。
 「聞き損なう」は、聞く機会を逃すこと。また、内容を間違えて聞くこと。
 「聞き逃す」は、聞く機会を逃すこと。
 「聞き忘れる」は、聞く機会を逃すこと。
 「聞き落とす」は、聞くべきことを、うっかりして聞かないでしまうこと。 
 「聞き漏らす」は、聞くべきことを、うっかりして聞かないでしまうこと。
 「聞き過ごす」は、いい加減に聞いたので、内容が頭に残っていないこと。
 「聞き流す」は、熱心に聞かず、聞いても心に残さないこと。
        音楽番組を 聞き損なう/聞き逃す/聞き忘れる/聞き流す
        危険を知らせる信号を 聞き落とす/聞き漏らす/聞き過ごす

きこえる(聞こえる) 五(きこえない・きこえます・きこえて・きこえれば)
[1]〔(人ニ) (所カラ) ものガ〕
 △[声(こえ)/なきごえ/とりの声/音楽(おんがく)/物音(ものおと)/ラジオ]が~。
 △聞こえてくる  聞こえてしまう  聞こえるといい  聞こえないほうがいい
  聞こえなくてはいけない  聞こえさせる  
 △[少し/かすかに/ぼんやり/はっきり/よく/手にとるように]~。
 ・すみません、電話の調子(ちょうし)が悪いらしくて、よく聞こえないんですが。
 ・となりの部屋からラジオの音が聞こえてうるさい。
 ・遠くからピアノを練習する音が聞こえてくる。
 ・列車(れっしゃ)の音はだんだんとおざかって行き、ついに聞こえなくなった。
 ・Q先生の声は小さいので、教室のうしろの方ではよく聞こえません。
 ・P先生の声はとくべつ大きいから、うしろの方のせきの学生にもよく聞こえる。それだけではな
  くて、となりの教室でも聞こえてしまうらしい。
 ・そんなにおおごえで話さなくても聞こえますよ。
 ・となりの部屋(へや)にいたのに、かれにはこの部屋の物音が聞こえなかったらしい。
 ・母が何か私にたのんでいたが、いそがしいので聞こえないふりをしていた。(母の声が)
[文のガ]
 ・母が台所で楽しそうに歌っているのが聞こえる。
 ・日曜の朝、妻が近所の奥さんと立ち話しているのが聞こえてくる。平和な朝だ。
[2]〔人ニ ものガ ものニ〕
 ・いつも人を悪く言うあなたが、たまに人をほめると皮肉(ひにく)に聞こえる。
 ・いつもじょうだんばかり言うから、たまにほんとうの事を言っても、ほんとうに聞こえない。

   (=ほんとうだと思われない)
 ・山田さんのあの発音(はつおん)では中国語に聞こえない。(=中国語の発音だと思われない)
[イ形-く/ナ形-に/その他の補助形式]
 ・しずかなよるには、小さなおとも大きく聞こえる。
 ・わたしには、大木さんの話はおもしろく聞こえたよ。(=話がおもしろい) 
 ・へたな英語も大きな声でしゃべると上手に聞こえる。
 ・これはみょうに聞こえるかもしれないが、私はほんとうは大ぜいの人の前で話をするのがきらい
  なのです。
 ・あんまりウソがうまいから、山田の話はみんなほんとうらしく聞こえた。(=まるでほんとうの
  話のようだった)
 ・どうも彼の話はウソっぽく聞こえる。

<連語動詞>
[音がする]
 ・へやの中で音がする。中に誰かいるらしい。(へやの中から音が聞こえる)
  ・何か、ジーという音がしていませんか。何の音だろう。
 ・赤ちゃんが寝ているので、足音がしないように、そーっと歩いた。


きく(聞く)  五(きかない・ききます・きいて・きけば・きこう)
[1]〔人ガ ものヲ〕
 △聞きたい  聞き始める  聞いてほしい  聞いてみる  聞いておく  聞いてしまう
  聞いてはいけない  聞かなければならない  聞こうとする  聞かれる  聞かせる
  聞かせられる  聞け!  聞くな!  聞ける 
 △[よく/じっくり/注意(ちゅうい)して/真剣(しんけん)に/ぼんやり/じっと]~。
  [最初(さいしょ)から/半分くらい/だいたい/ぜんぶ/最後(さいご)まで]~。
 △[ラジオ/音楽(おんがく)/ピアノ/名曲(めいきょく)/歌声(うたごえ)]を~。
  [雨の音(おと)/虫(むし)の声/叫び声(さけびごえ)/話し声(ごえ)/雷(かみなり)]を~。 
 ・何か音楽でも聞きましょうか。ふだんはどんな音楽を聞いていますか。
 ・最近の若い人の歌を聞いてみたいですね。みんな、どんな歌を聞いているんでしょう。
 ・何もせず、ただ雨の音を聞いていると、むかしのことを思い出す。
 ・虫の声が聞こえるね。いいねえ。こうやってゆっくり虫の声を聞くなんて、久しぶりだなあ。
 ・音楽会へ名曲を聞きに行って、いい気持ちで帰って来ると、となりの家から聞こえてくるピアノ
  の音はまるで騒音(そうおん)のようだ。
[文のヲ]
 ・ひろ子さんがイタリア語でうたうのを聞いたことがある。
 ・にわとりのなくのを聞いた。いなかにすんでいてよかったと思った。
 ・さっき、風呂場(ふろば)でいい気持ちで歌っていたのをとなりの奥さんに聞かれたらしい。

<複合動詞:きき->
[ききあきる] 人ガ ものヲ
 ・もうこの歌は聞き飽きた。
 ・名曲は何度聞いても聞き飽きない。
[ききいる] 人ガ ものニ 
 ・人々はオーケストラの輝かしい響きに聞き入っていた。
 ・私は、彼女の話の内容よりも、その美しい声にうっとりと聞き入っていた。
   うっとりと 真剣な顔で じっと しんとして 息をひそめて 身を乗り出して
[ききおとす] 人ガ ものヲ
  ・ぼんやりしていて、大事な部分を聞き落してしまったようだ。
[ききおぼえる] 人ガ uyものヲ
 ・その俳優の顔はもう忘れていたのだが、その特徴ある声は聞き覚えていた。
[ききこむ] 人ガ ものヲ (人ニ)
 ・このレコードはずいぶん聞き込んだので、音が悪くなってしまった。
[ききすごす] 人ガ ものヲ
  ・この曲は、気楽に聞き過ごせない内容と深さを持っている。
[ききそこなう] 人ガ ものヲ
 ・面白そうなライブをテレビでやっていたのに聴き損なった。誰か録画していないかなあ。
[ききだす] 人ガ 人カラ ものヲ
 ・しばらくジャズを聴かなかったが、最近また聞き出した。
 ・好きな音楽を聞き出すとやめられない。どうも寝るのが遅くなってしまう。
[ききつける] 人ガ ものヲ
 ・消防車のサイレンを聞きつけて野次馬が集まってきた。困ったものだ。
[ききとる] 人ガ ものヲ
  ・この素早い音の連なりを正確に聞き取るのは難しい。
[ききなおす] 人ガ ものヲ (人ニ)
 ・自分で演奏した曲を何度も聞きなおして間違いをチェックした。
   テープを 何度となく もう一度 
[ききながす] 人ガ ものヲ
 ・どんな名曲も、彼みたいにただ聞き流すのではもったいないみたいだ。
[ききなれる] 人ガ ものヲ
 ・「こんにちは。」聞きなれた彼の声が聞こえて、見なれた彼の大きな体が部屋に入ってきた。
 ・この言葉はどこの国の言葉だろう? 聞き慣れた音のような気がするが。
   音・声を 聞くともなく ~た声・訛り
[ききのがす] 人ガ ものヲ
 ・いい音楽番組を聞き逃した。誰か録画していないだろうか。
 ・警戒警報を聞き逃さないようにして下さい。
[ききほれる] 人ガ ものニ
 ・彼女の歌声に聞きほれた。顔もきれいだが、声はもっと美しい。
 ・三味線の音色に聞き惚れた。やはり邦楽はいいなあ。
   歌・楽の音・曲・声・太鼓・音色・話・ピアノ・名曲に うっとりと
[ききもらす] 人ガ ものヲ
 ・音楽会で居眠りしていて、さわりの独奏部分を聞きもらした。
[ききわける] 人ガ ものヲ ものト
 ・わたしは足音を聞いて、だれが歩いてくるのか、聞き分けることができる。
 ・弦楽四重奏で、バイオリンの音とビオラの音を聞き分ける。
   足音・エンジン音・音・音の高低・声・言葉・ベル・物音を
[ききわすれる] 人ガ ものヲ 
  ・テレビで好きな歌手の特集をやっていたのに、聞き忘れた。

[4]におう・かぐ
 鼻の感覚に関する動詞を見る。「におう」「かおる」という動詞があるが、「~がする」という言い
方がよく使われる。
    花のかおりがする   イヤなにおいがする
 「におう」は良い場合にも悪い場合にも使われる。名詞を使った「においがする」も一般的な表現。
「かおる」は、花などのよいにおいに使う。

◇におう
  鼻の感覚を刺激する「におい」を出すこと。「かおる」との対比で、どちらかと言えば良くないに
おいを示す。「匂う」「臭う」という表記は、それぞれよい匂い、悪い臭いを表す。
   ものガ におう
    なんだかにおうね      梅が匂う  トイレが臭う
 現在形「におう」で現在の状態を表すことができる。「におっている」は、継続をはっきり示す形。
 ひゆ的な表現で、何か隠されていることの存在が推測されるという意味合いで使われる。
    この企業の取引はどうも臭うな
  使役形「におわせる(におわす)」は、「においを出す」という意味と、「暗示する」という意味を
表す。
       甘い香りをにおわせる花     話したくないという態度をにおわせた
◇かおる
 良いにおいがすること。やや文学的な語。現在形「かおる」で現在の状態を表す。「香っている」
は継続をはっきり示す形。
   ものガ かおる
    梅が香りますね   花香る野山
◇においがする
 話しことばでよく使われる表現。「いい~」「いやな/くさい~」などの形容詞をつけて使われる。
「する」で現在の状態を表す。「している」は継続をはっきり示す形。
    何かにおいがしますね   この花はいい匂いがする  いやな臭いがしているぞ
  いやな臭いの場合、感覚をそのまま表出する表現としては、形容詞「くさい」を使うのがふつう。
    うわっ、くさい! 
 においの原因が特定される場合、「~のにおいがする」の形で示す。
    ガスの臭いがする
 あるものがにおいを出していることは、「する」の使役形を使い、「においをさせる」で表す。
    百合の花がいい匂いをさせている
◇かぐ
 また、においを感じようとする動作は「かぐ」で表す。
   人・動物ガ ものヲ かぐ
       花の匂いをかいでみた   犬が私のズボンをかいでいる
 「かぐ」の複合動詞は、ひゆ的な用法が発展している。
 「嗅ぎ合う」は、相互的な動作で、互いに相手のにおいをかぐこと。
 「嗅ぎ当てる」「嗅ぎ出す」は、においまたは何かのてがかりによって、何かを見つけること。
    タバコの銘柄を嗅ぎ当てる   秘密をかぎ出す 
 「嗅ぎつける」「嗅ぎ取る」は、においまたは何かの手がかりを見つけ、さらに探そうとすること。
    おいしい匂いを嗅ぎつけて集まってくる   話にウソがあることを嗅ぎ取る
 「嗅ぎ回る」は、においを嗅ぎながらあちこちを回ること。また、何かの手がかりを探すこと。
 「嗅ぎ分ける」は、においの違いを区別すること。また、物事の微妙な違いを感じ取ること。
       犬があちこち嗅ぎ回っている   薬品のにおいを嗅ぎ分ける


におう(臭う・匂う)五(におわない・においます・におって・におえば) 
[1]〔ものガ〕
 △においやすい  においそうだ  においだす  におってしまう
  におってはいけない  におわないようにする    におわせる
 △[少し/かすかに/ほのかに/かなり/ひどく/プーンと/プンプン]~。
 △[体/髪(かみ)の毛(け)/花の香(か)/へや/化粧(けしょう)/香水(こうすい)]が~。
  [ガス/ストーブ/トイレ/枯(か)れ草/台所のゴミ/犬のふん/靴下(くつした)]が~。
 ・なにか臭うぞ。何の臭いだろう。ゴミが臭っているのだろうか。
 ・ごみが臭わないようにビニール袋(ぶくろ)に入れてある。
 ・あなたは髪の毛が臭いますね。しばらくおふろにはいっていないんじゃありませんか。
 ・口が少しにおうぞ。ごはんのあとはいつも歯(は)をみがきなさい。
  ・大きな花びんいっぱいの花が部屋全体に匂っている。
 ・焼き魚の匂いが二階にまで匂ってくる。
 ・何かのいい匂いが台所から匂ってきた。今日の夕食(ゆうしょく)は何だろう。
  ・役所(やくしょ)の課長と出入(でい)りの企業(きぎょう)の部長が会っている。なにか臭うな。
 ・この話には裏(うら)があるということを少し匂わせておいた。


かおる(香る・薫る)  五(かおらない・かおります・かおって・かおれば)
[1]〔ものガ〕
 △かおりつづける  かおってくる  
 △[かすかに/ほのかに/ふくいくと/上品(じょうひん)に/あでやかに]~。
  △[花/バラの花/梅(うめ)/百合(ゆり)/風/山/香水(こうすい)]が~。
  ・今、植物園にいます。バラの花が香っています。
 ・風薫る初夏(しょか)、別荘(べっそう)を出て丘(おか)に登ってみた。
 ・夜の庭に出てみると、花壇(かだん)のバラの香りが闇(やみ)の中で強く香った。
 ・芳香剤(ほうこうざい)の甘い香りがまだ部屋の中に香っていた。


においがする(匂い・臭いがする)  サ変(しない・します・して・すれば)
[1]〔ものガ〕
 △においがしそうだ  するかもしれない  してほしい  してはこまる  においをさせる
 △[かすかに/ほのかに/ぷ-んと/ぷんぷん/つよい/きつい/はげしい]~。
   [いい/きもちのいい/すっきりするような/いやな/よくない/きもちわるくなる]~。
  [甘い/甘ったるい/鼻(はな)を刺(さ)すような/つーんとする/吐(は)きそうな]~。
  ・台所(だいどころ)からいい匂いがしてくる。おいしそうな匂いだ。今日のおかずは何だろう。
 ・ん? 何か臭いがしない? ガスじゃない? となりのうちか? だいじょうぶかなあ。
 ・あたりはいやな臭いがした。吐きたくなるような、鼻を刺す臭いだ。
 ・花火をやると、うちの犬は逃げていく。耐(た)えられないような強い臭いがするのだろう。
  ・公園の花壇(かだん)の花がいい匂いをさせている。植(う)えてくれた人に感謝したいくらいだ。
  ・今日はまた、いい匂いをさせているね。それはどこの香水(こうすい)?


かぐ(嗅ぐ)五(かがない・かぎます・かいで・かげば・かごう)
[1]〔人ガ ものヲ〕
 △かいでみる  かいではいけない  かがせる  かがれる  かごうとする  かぐな! 
 △[ちょっと/何度も/くんくん/鼻で]~。
 △[食べ物のにおい/花の香(かお)り/へやの空気/吹き来る風]を~。
 ・父は今朝(けさ)もにわへ出て、バラのにおいをかいでいた。
 ・このごはん悪くなっていませんか。ちょっとにおいを嗅いでみてください。
 ・カゼを引いてしまって、においがぜんぜんかげない。
 ・犬がえさのにおいをかいでいる。安物(やすもの)だとわかるのかな。
 ・家に帰って、犬ににおいをかがれると、外でやってきたことがばれるようで怖(こわ)い。
 ・花の香りをかごうとしたら、中からハチが出てきて、チクッ! イテテテ、、、。

<複合動詞>
[かぎあう] 人・ものガ 人・ものヲ
 ・道で出会ったイヌとイヌがおたがいに、においを嗅ぎ合っている。
 ・二人は互いの素性を嗅ぎ合うかのように、相手の身なりを品定めした。
[かぎあてる] 人・ものガ もの・文ヲ
 ・訓練された犬が被災者の居所を嗅ぎ当てた。
 ・かれはけむりの匂いでタバコの名を嗅ぎ当てることができるそうだ。
 ・雑誌の記者に会社の経営がうまくいっていないのを嗅ぎ当てられてしまった。
   覚醒剤・かすかな匂い・同類・秘密を
[かぎだす] 人・ものガ ものヲ
 ・あの人は人の家のひみつをいろいろ嗅ぎ出してきては人に言ってまわる。こまった人だ。
 ・探偵はその旧家の隠された秘密をかぎ出した。
   兆し・秘事・秘密・行方・来意を
[かぎつける] 人・ものガ ものヲ
 ・捜索犬が生き埋めになっている人の匂いをかぎつけたらしい。
 ・あの男は、人の秘密を嗅ぎつけて、その人をおどして金を取っているらしい。
   異常・嘘・隠れ家・関係・計画・事件・女性関係・体臭・匂い・秘密を
[かぎとる] 人・ものガ 文・ものヲ
 ・空港の税関の犬は、かすかな麻薬のにおいを嗅ぎ取ることができる。
 ・刑事は、二人の話にうそがあることを嗅ぎ取った。
   香り・気持ち・気配・体臭・犯罪の匂い・優越感・微妙な亀裂を敏感に
[かぎまわる] 人・ものガ ものヲ
 ・警察犬が犯罪の現場を嗅ぎまわって、犯人の手がかりを捜している。
 ・警察がお前の回りをかぎまわっているらしい。気をつけないと危ないぞ。
   辺り・男の周囲・情報・身辺・その辺・まわり・様子を くんくん
[かぎわける] 人・ものガ ものヲ
 ・わたしにはどの花の匂いもみんな同じように感じます。ちがいを嗅ぎ分けることはできません。
      危険・鮮度・違い・同類・匂い・秘密を 敏感に

[5]痛む・痛める

 痛みに関する動詞を見る。痛みを感じる状態は「痛む」であらわす。現在形「痛む」が現在の状態
を表す。「痛んでいる」は使わない。対応する他動詞は「痛める」。

◇いたむ
 「痛む」は、痛いと感じること。そう感じる体の部分をガ格で表す。
   ものガ いたむ
    足が痛む   痛む体を休める   どこが痛みますか 
  「痛む」は、状態を表すので、瞬間的な感覚は表せない。感覚を直接表現するには、感覚形容詞「痛
い」を使うほうが一般的である。
    足が痛い  どこが痛いですか
 その感覚を描写するには、
    今、足に 痛みを感じた/痛みが走った
などの「痛む」の名詞形「痛み」を使う表現があり、よく使われる。
    痛みが ある/走る/ひどくなる/なくなる/消える/おさまる
    痛みを 感じる/なおす/消す/おさえる  
  痛みの種類の違いをオノマトペで表す。
    ひりひり・ずきずき・ちくちく・きりきり・がんがん 痛む/痛い
 オノマトペの多くはスル動詞となる。
    ひりひり・ずきずき・ちくちく・がんがん する
 「ひりひりする」は、皮膚の表面をすりむいた時や、辛いものを食べた時のの痛みを表す。「ずき
ずきする」は、傷が脈を打つように痛む場合。「ちくちくする」は、針で何度も(軽く)刺されるよう
な痛みを表す。「がんがんする」は、頭の中で鳴り響くような痛みを感じる場合。
 これらは「痛む」と同様に、状態を表す。瞬間的な痛みは、次の形を使って表す。
    傷がズキッと痛んだ  指先がビリッと/チクッと した 
 「痛む」は、精神的な苦しみについても使われる。ひゆ的に、苦しい状態であることを言う。
    心・胸が 痛む    ふところが痛む(出費が多く、苦しい)
 「いたむ」は、「傷む」という漢字表記で食物が腐ったり、器物に傷が付いたりすることを言う。
「状態変化」でとりあげる。
◇いためる(痛める・傷める)
 「痛める」は、体(の一部)を痛く感じてしまうようにすること。対象のヲ格に体の部分をとる。骨
折や切り傷などにはあまり使われず、関節や筋肉、内臓などの状態が悪くなることを言う。ひゆ的に、
精神的なことで悩むことも言う。
   人ガ ものヲ いためる
    肩を痛める  こころを痛める  税金で頭を痛める
 「-ている」の形は、結果の状態または継続中であることを表す。
    彼は膝を痛めている  災害の悲惨さに心を痛めている
 「おなかを痛める」は、慣用的に出産の際の痛みを表すことがある。
    私がおなかを痛めた子ども (自分が産んだ子)
 複合動詞「痛めつける」は、人が痛く感じるようにすること。やっつけること。
  「傷める」は、食物を腐らせたり、器物に傷を付けけたりすることで、「状態の変化」でとりあげ
る。

◇痛がる
  「痛がる」は、イ形容詞「痛い」に接辞の「-がる」が付いた派生動詞で、痛いと感じていること、
およびそういう様子をまわりに示すことを表す。
   人ガ いたがる
       子どもが痛がって泣く


いたむ(痛む・傷む) 五(いたまない・いたみます・いたんで・いためば)) 
[1]〔(人の)ものガ〕
 △いたみだす  いたみそうだ  いたみかける  いたまないようにする
 △[ひどく/とても/ずきずき/ひりひり/ぴりぴり/ちくちく]~。
 △[頭/おなか/腹(はら)/歯(は)/腕(うで)/ひざ]が~。
 ・どこが痛みますか。ここですか。こっちは痛みませんか。
 ・ゆうべは虫歯(むしば)がひどく痛んで、ねむれなかった。
 ・きのうひさしぶりに運動したので、きょうは体中(からだじゅう)が痛む。
 ・父の古い傷(きず)が痛みだすと、天気が悪くなるそうだ。
 ・かわいそうな子どもたちの話をきいて、むねが痛んだ。(=とてもかわいそうに思った)
 ・弟(おとうと)に悪いことをしたと思うと、いくらか心が痛む。
[2]〔ものガ〕
 △[みかん/魚(さかな)/さしみ/肉(にく)/野菜(やさい)/レタス]が~。
  [本/服(ふく)/くつ/かばん/机(つくえ)]が~。
 △いたみやすい  いたみがちだ  いたんでしまう  いたまないようにする
 ・レタスはぬれるとすぐに傷みますから、気をつけてください。
 ・5年もはいているので、くつがだいぶ傷んできた。

<スル動詞>
[がんがんする]  ものガ
 ・ゆうべ飲み過ぎた。頭ががんがんして、起きられない。
 ・がんがんする頭の痛みをこらえながら、何とか家を出、駅まで歩いた。
[ずきずきする]  ものガ
 ・ナイフで指を切ってしまった。手当はしてもらったが、傷がずきずきする。
 ・転んで頭を壁にぶつけた。頭がずきずきして何もできない。
[ちくちくする]  ものガ
 ・髪を切ってもらった時、細かい毛が背中に入ったらしく、背中がちくちくする。
 ・やぶの中を通ろうとしたら、何かのとげがちくちくして痛い。
[ひりひりする]  ものガ
 ・インドのカレーを食べたら、口の中がひりひりして、涙がぽろぽろ出た。
 ・転んで手足をすりむいた。消毒したら、いっそうひりひりした。
 ・姉とけんかをして、顔を思いきりひっぱたかれた。まだひりひりする。


いためる(痛める・傷める) 一(いためない・いためます・いためて・いためれば) 
[1]〔人ガ (自分の)ものヲ〕
 △いためそうだ  いためかねない  いためがちだ  いためてしまう 
  いためてはいけない  いためないようにする  いためるな!
 △[不注意(ふちゅうい)で/うっかり/何度も/以前(いぜん)/昔(むかし)]~。
 △[肩(かた)/足/腰(こし)/のど]を~。[心/頭/胸(むね)/おなか]を~。
 ・じゅうどうの練習(れんしゅう)をしている時に腰を痛めた。
 ・ボールをなげようとして、かたを痛めた。
 ・ひざを痛めているので、歩くのがつらい。
 ・腰を痛めないように、重い荷物(にもつ)にはちゅういしてください。
 ・スポーツ選手(せんしゅ)は、からだが資本(しほん)だ。筋肉(きんにく)を痛めるなよ。
 ・カラオケのやりすぎで、のどを痛めたらしい。声がガラガラだ。
 ・昔(むかし)若いころに痛めた足が、年をとったらまた痛み出した。
 ・被災地(ひさいち)の状況(じょうきょう)を見て、心を痛めた。
[2]〔人ガ ものヲ〕                                          (→「状態変化」の「傷む」)
 ・引っ越し(ひっこし)の時、家具(かぐ)を傷めないようにしてください。
 ・乱暴(らんぼう)な運転をして、かりた車をあちこち傷めてしまった。

<複合動詞:いため->
[いためつける] 人ガ 人ヲ
 ・若造が生意気なことを言うので、少し痛めつけてやった。
 ・悪いやつらを痛めつけてやれ。
      筋肉・家計・神経・自分・生活・人・貧乏人を じわじわと  神経を~られる


いたがる(痛がる)  五(いたがらない・いたがります・いたがって・いたがれば)
[1]〔人ガ〕
 △いたがってみる  いたがってはいけない  いたがるな! 
 △[すこし/かなり/ひどく/大きな声で/大げさに/ぎゃあぎゃあ]~。
  △[小さな傷(きず)/やけど/頭のこぶ/足の裏(うら)のマメ]を~。
  ・転んだ子どもは痛がって大きな声で泣いた。
 ・大げさに痛がってみたが、だれも同情(どうじょう)してくれなかった。ふだんの行いが大切だ。
 ・大(だい)の男がその程度(ていど)の傷で痛がるな。こらえろ! 

[6] 味覚
 味覚は、特にその感覚を表す動詞がない。具体的な味覚の表現は、感覚形容詞を使って「~味がす
る」の形にするか、あるいは「名詞/形容詞+感じる」で表される。
    甘い味がする    甘さを/甘く 感じる
 味を表す感覚形容詞を使うのが日常的な表現である。
    砂糖は甘い   このケーキは甘いね
    あの店のカレーは辛くて食べられない
 人の動作としては「味わう」があるが、意味合いが他の感覚動詞とは違う。
    春の味覚を味わう

◇あじわう
 「味わう」は、飲食物の味を楽しむこと。ひゆ的に、精神的な体験をすること。
   人ガ ものヲ あじわう
    料理を味わう  苦しみ・解放感・勝負の醍醐味を 味わう


あじわう(味わう)  五(あじわわない・あじわいます・あじわって・あじわえば・あじわおう)
[1]〔人ガ ものヲ〕
 △あじわいたい  あじわってみる  あじわうべきだ  あじわえない  あじわおうとする
 △[ゆっくり/じっくり/深く/しみじみと/何度も/くり返し]~。
  △[料理(りょうり)/よい酒/タバコ/珍味(ちんみ)/文章(ぶんしょう)のうまさ]を~。
  [苦痛(くつう)/緊張感(きんちょうかん)/満足感(まんぞくかん)/挫折(ざせつ)]を~。
  ・落ち着いた店で、料理の味をゆっくり味わうのが好きだ。
 ・私は、山海(さんかい)の珍味を味わうという楽しみを今まで知らずに生きてきた。
 ・エッセイというのは、文章のおもしろさを味わうものだ。言っていることの正しさは二の次(に
  のつぎ)だ。
 ・これまでの人生の中で人生の苦しみを何度も味わってきた。
 ・一度レースの中でひりひりするような緊張感を味わうと、レースがやめられなくなる。
  ・この、勝利(しょうり)の快感(かいかん)を味わいたいために、苦しい練習に耐(た)えてきたのだ。

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