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           ┌──────────────────┐            
             │    10.修 飾      │            
                 └──────────────────┘            
                        10.1  連体修飾
                         10.2  連用修飾
             10.3 修飾語の役割
             10.4 文修飾

  以上で基本述語型の述語と補語(とその中心となる名詞句)についての説明と、「主題-解説」という構造の「主題」、そしてその補語の主題化の解説が終わりました。以上のようにして単文の基本的な骨組みが作られます。以下では、この骨組みに更に情報を付け加える方法を考えます。
  骨組みにさまざまな形で加わって意味を加える要素は「修飾語」です。以下で述べることの中心は、修飾語にはどんなものがあるか、ということです。
 補語や修飾語という用語は、「~語」という形をしていますが、単一の語に限られるわけではありません。補語は「名詞+助詞」ですし、「名詞句+助詞」でもいいのです。「複文」で扱うことになる「名詞節+助詞」も補語です。同じように、「修飾語」と言ってもいくつかの語の集まりでもかまいません。
  「修飾語」という言葉は「0. はじめに」で紹介しましたが、さて「修飾」とは何か、というのは理論的には難しい問いです。ここでは具体的に、
        a.どの/どんな N か
        b.どう/どのように  V/A/N  か
に対する答えである、としておきましょう。
  aのほうは、名詞の修飾で、「連体修飾」と呼ばれます。「どのNか」、つまりそのNの外延(示される範囲)を限定する働きと、「どんなNか」つまりそのNの属性(性質・内容)を説明する働きがあります。
        1  本棚の2段目にある、あの、赤い、厚い辞書は私のです。
        2  これは、評価の高い、よく売れている、便利な辞書です。
  例1の「本棚の2段目にある、あの、赤い、厚い」という部分は、性質や内容を述べているというより、そうすることによって「私の辞書」が「どれか」を示しています。ある一冊を特定するために必要なもので、別のことばでもかまいません。近づいて手に持って、「これは私のです」と言ってもすむ場面です。
  それに対して例2のほうは、その辞書が「どんな」辞書かを具体的に述べています。「評価の高い、よく売れている、便利な」という形容は、それぞれほかのことばでは置き換えられないものです。それを省略して「これは辞書です」と言ったのでは、この文の伝えたいことが何も伝わりません。
 名詞に対する修飾という作用のこの2つの側面は、実際には重なりあっていることが多いでしょうが、考え方としては分けられるものです。
  bのほうは、述語を修飾するもので、「連用修飾」と呼ばれます。述語が動詞の場合にはその様子、量、程度、時などを表し、その動詞の表す内容をよりくわしくする働きがあります。形容詞の場合には主に程度を表します。名詞述語の連用修飾は少ないです。
  この章は、これまでに出てきた修飾語の整理と、これ以後に出てくる修飾語を概観するための章です。まず初めに、補語と名詞述語の名詞を修飾する「連体修飾」について、次に述語を修飾する「連用修飾」について、どのような形式があるかをかんたんに述べます。
  「連体」の「体」というのは「体言」のことで、国文法で名詞と代名詞を合せてこう呼びます。つまり「連体」とは「名詞にかかる」という意味です。
 「連用」の「用」は「用言」で、動詞・形容詞(+形容動詞)を合わせてこう呼びますから、「連用」とは(名詞述語も含めて)「述語にかかる」という意味です。なお、「補語」は「連用修飾語」とは区別しますが、「述語にかかる」という点では、同じ「連用」の仲間です。
 なお、以上の説明はすべて単文の範囲での話です。複文になると、修飾の形式も機能も異なるところがあります。それは第3部の複文のところで考えます。

10.1  連体修飾
[これまでのまとめ]
  名詞を修飾する要素については、名詞文と形容詞文の中で少し触れました。
      a.こそあど+N    この本      どんな人
      b.NのN          私の机      富士山の絵
      c.イ形容詞+N    高い山      白い花
      d.ナ形容詞+N    元気な人   きれいな絵 
 これらについて問題点を考えます。

[こそあど+N]
  いわゆる「こそあど」の中で、名詞文のところで使われていたのは「この」の類だけでした。連体修飾をするものとしては、「この・その・あの・どの」のほかに、
          こんな・そんな・あんな・どんな  人
          このような・そのような・あのような・どのような  物
          こういう・そういう・ああいう・どういう  所
などがあります。「こ・そ・あ」の用法については「15.指示語」で、「ど」については「16.疑問語と不定語」で述べます。

[NのN] 
  これは「5.名詞句」でいろいろな種類を見てみました。

[イ形容詞+N]
  イ形容詞による連体修飾は、基本的な例の範囲では特に問題ないように見えます。
          大きい本      暑い日      悲しい話
 連体修飾にならない例外的な語があります。「多い・少ない」と「遠い・近い」です。
    ×多い人  ×少ない金    (多くの人・少しのお金)
        ?遠い国  ?近い店       (遠くの国・近くの店)
 「遠い町 遠い国」という歌詞の一節がありますが、ふつうの言い方としては「遠くの町」でしょう。
 ただし、これらの形容詞が補語をとり、節の述語として機能していると見なされる場合は、上の形での連体修飾が可能になります。
     女子学生が多いクラス
     ページ数が少ない本
     日本から遠い国
     大都市に近い海水浴場
 「多くのクラス」はクラスの数が多いのですが、「女子学生が多いクラス」ではそうではありません。多いのは学生数です。
 形容詞と名詞のある組み合わせが、述語用法では使われず、連体用法のみに使われる場合があります。
     近い将来
    ×将来が近い  
 逆に、慣用的な表現の中の名詞は連体修飾の形にできません。
          気が弱い
    ×弱い気
  もう一つ、過去形はどんな場合に使うのか、という問題があります。
          とても 楽しい/楽しかった 一年でした。
  この問題は、述語による連体修飾を扱う「56.連体節」で触れることにします。(→ 56.5.2)

[ナ形容詞+N]
  ナ形容詞の場合は、前にも述べたように「名詞+の」との区別がまず問題になります。
          特別な/の  配慮       さまざまな/の 調査
  これも、過去形の場合は「56.連体節」で扱います。
          退屈だった日        きれいだった壁

 以上がこれまでに出てきたものです。述語となる三つの品詞のうち、名詞・形容詞を扱いました。次は動詞です。動詞も名詞を修飾します。
[動詞]
  動詞が名詞を修飾する場合は、「複文」と考えるのが一般的です。
          本棚の二段目にある辞書
        私が見た映画
  これらは「連体節」と呼ばれます。動詞は活用形の点で難しくなるので、教科書では形容詞の連体修飾より後で出されることになります。この本では、ずっと後の方になってしまいましたが、「56.連体節」で説明します。

[連体詞]
  このほかに、品詞分類のところで出ていた「連体詞」は、連体修飾専用の品詞です。動詞など他の品詞から転成したものが多く、数は少ないです。
          あらゆる方法     ある方法     ろくな方法(がない)
          来たる十日      明くる朝
  修飾する名詞を越えて、述語の否定と呼応するものがあります。
          彼はろくなことを言いませんでした。
  「こそあど」の「この・こんな」なども連体詞に入れられます。連体詞については特に章をたてません。

[連体修飾語の重なり]
  以上の修飾語がいくつか重なって一つの名詞を修飾する場合があります。
          私のこの青いきれいな一万円の服
  修飾語の語順は比較的自由です。
          私の青いきれいなこの一万円の服
          この一万円の青いきれいな私の服
          私のきれいな一万円のこの青い服
  この例の場合、「青い」と「きれいな」は外見の形容という共通性があるので、離すと少し不自然かもしれません。
  もちろん、次のようにすると別の意味にとられやすくなってしまいます。
          きれいな私のこの青い一万円の服(きれいな私)
  話す場合は、イントネーションやわずかなポーズで意味が変わります。
 最初の例では、修飾語がかかる名詞が「服」一つだったのでかかり方のまぎれはなかったのですが、次の例ではかかり方をどう考えるかによって、いくつもの意味になり得ます。
     きれいな黒い目の大きな女の子
  まず「女の子」が、「girl」なのか、「ある女性」の「子ども」なのかが問題です。後者の場合、「子」は男でありえます。「大きな女の子」と言っても、誰が「大きい」のか。また、「黒い」のは「目」か、「女」か、「女の子」か、あるいは、多少不自然ですが、「子」か。構造を図式的に表してみると、 
          [黒い目]の女の子
          [[黒い][目の大きな]女]の子
          [黒い][目の大きな][女の子]
          [黒い][目の大きな女の]子
のようになります。
 「黒い目」だとしても、それは誰の「目」なのか。「大きな」のは、「目」か、「女・女の子・子」の誰か。さらには、「黒い目の大きな」の部分の解釈を「黒い目が大きな」と考えると、また組み合わせが増えてしまい、いくつもの解釈が生じます。
 これは極端な例ですが、このような問題は常にありえます。
  なお、イ形容詞が「-く/-くて」、ナ形容詞が「-で」の形をとる場合は「複文」と考え、「59.複文のまとめ」のところで触れることにします。
          青くて、きれいで、とても高い服

10.2  連用修飾
  この先いくつかの章を使って連用修飾について述べていきます。まずここで連用修飾をするものをかんたんに眺めておきましょう。その中のいくつかは連体修飾にも使われます。

[副詞](→「11.副詞・副詞句」)
  連用修飾の代表は副詞です。この本では形容詞の「中立形」(学校文法の「連用形」にあたります。活用形の名称は「21.1.2 活用形」を見てください)も副詞としました。
          ゆっくり歩きます。
          まだバスは来ません。
          次の試合は絶対に勝ちます。
          速く歩きます。              (イ形容詞の中立形から)
          部屋をきれいに掃除しました。(ナ形容詞の中立形から)
  一部の副詞は、名詞述語のように「~です」の形で述語にもなります。
          彼の歩き方はとてもゆっくりです。
  また、「~の」の形で名詞を修飾することもあります。
          だいたいわかりましたか。ここはだいたいの理解でけっこうです。
 いくつかの語が集まって一つの副詞のように連用修飾をする場合があります。それを「副詞(相当)句」とします。
     朝早く   運良く   知らず知らず   残念なことに

[動詞のテ形]
  動詞のテ形が動詞性を失って、ほとんど副詞のように述語を修飾する場合があります。数はそれほど多くありません。
          歩いて/急いで  学校へ行きます。
          自動販売機に間違って五円玉を入れてしまった。
  次のようなものは「格助詞相当句」としてすでに扱いました。
          季節(の変化)につれて、景色も変わります。

[擬音語・擬態語](→「12.擬音語・擬態語」)
  擬音語・擬態語も、基本的には副詞ですが、形容詞や名詞として、あるいは「スル動詞」としての用法もあり、連体修飾の用法を持つものもあります。
          ぐらぐらゆれます。
          歯がぐらぐらです。
          歯がぐらぐらします。
          ぐらぐらの歯   ぐらぐらしている歯

[数量表現](→「13.数量表現」)
  数量の表現は、連体修飾と連用修飾の両方の用法があります。
          三人の留学生が来ました。
          留学生が三人来ました。
          2時間歩きました。 

[形式名詞](→「14.形式名詞」)
  それから、形式名詞というある種の名詞を使った構文も、連体・連用の両方に使われるものが多いです。
          説明書のとおりの性能
          説明書のとおりに組み立てます。

  以上が基本述語型をさまざまな形で修飾する要素です。この後の章で、それらの一つ一つをくわしく見ていくことにします。それから、品詞分類とは少し
違ったグループわけによるものを二種類見てみます。

[指示語](→「15.指示語」)
  指示語はそもそもいくつかの品詞の集まりですから、連体・連用の両方に使われます。名詞に入るものもあります。
          このやり方
          こうやります。
          これをここに置きます。

[疑問語・不定語](→「16.疑問語・不定語」)
  もう一つ、ふつう「疑問詞」と言われているもの、それと、聞き慣れないことばでしょうが、「不定表現」に使われる「不定語」。これらの性質をまとめておきます。連体・連用の両方に使われます。
          誰がいますか。          誰の本
          誰かいますか。          誰かの本
          誰もいません。
     誰でもできます。

[比較構文](→「17.比較構文」)
  これは「補語」のところで扱うべきなのかもしれませんが、また少し性質の違ったものですので、以上の修飾要素の後に置いておきます。
          かなは漢字よりやさしいです。
          かたかなのほうがひらがなより難しいです。

[副助詞](→「18.副助詞」)
  補語に付いて、ある種の意味合いをつけ加える助詞です。格助詞のように、事柄そのものを描写するために使われるのではなくて、その事柄以外の、背後にあることを暗示するために使われます。
          先生は私にだけその話をしました。
      さいふの中には千円しかありません。
     日本の学生は漫画ばかり読みます。
この三つの例では、それ以外のことは起こらない、という含みがあります。くわしくは「18.副助詞」で。 

[終助詞](→19.)
  文の最後に付いて、話し手の「気持ち」を示す助詞です。「修飾」ということとは関係ありませんが、「単文」の締めくくりの要素として、ここでとりあげておきます。
          これで一区切りですね。
     やっと終わりましたよ。
 ついでに「間投助詞」についても触れます。

  ここまで行けば、単文の骨組みと、それに付属する要素のひととおりの説明が終わることになります。

10.3 修飾語の役割 
 さて、修飾語というと、文の骨組みについて付加的な意味をつけ加えるもの、つまりは重要性の低いもの、という印象をもたれがちですが、そうとは限りません。例えば、
      もっとゆっくり走りなさい。
という文の骨組みになるのは、「走りなさい」という(複合)述語で、「もっとゆっくり」は修飾語ですが、この文が伝えたいことは、「走りなさい」ということではありません。たぶん、この文が発せられたとき、聞き手はすでに走っています。話し手が言いたいことは「もっとゆっくり」という点です。もしかすると、聞き手はすでに「ゆっくり」走っているかもしれません。その場合は、「もっと」のところがいちばん重要な部分になるわけです。
 というわけで、修飾語かならずしも付加的情報ではありません。それどころか、文の中心的な情報であることも多いのです。
 また、次のような例もあります。何か動くおもちゃを見て、
     うまくできていますね。
と言った場合、「うまく」は修飾語ですが、これを省略して、
    ×できていますね。
と言っただけでは、意味をなしません。このように、修飾語が不可欠な場合もあるのです。
 連体修飾ではこのように修飾語が不可欠な例がよくあります。例えば、
     「田中さんはどのひとですか」「あの男性です」
で、「あの」は修飾語ですが、それを省略して「男性です」とは言えません。このような「指示」が求められている場合には、大切なのは修飾される名詞ではなくて、「あの」の部分なのです。また、
     長い髪の少女
のような場合にも、この「長い」は不可欠なものです。
    ?髪の少女
 「髪の」だけでは「少女」を特徴づける要素とならないからです。このような「部分」や「側面」を表す名詞の修飾語は、省略できないものが多いです。
     大きな声で叫んだ。(×声で叫んだ)
     赤い色に塗る(×色に塗る)
 次の「服」と「和服」の違いは何でしょうか。
     あそこの青い服の男です
    ?あそこの服の男です。
      cf. あそこの青い和服の男です。
        あそこの和服の男です。
「服」は人を特徴づける働きがなく、「和服」には比較的それがあるということでしょう。
 
10.4 文修飾
 修飾を大きく二つに分けて、「連体修飾・連用修飾」として考えてきましたが、名詞や述語にかかるとは言えないものがあります。
 一つは、文末の「ムード」の形式にかかると考えられるものです。
     たぶん彼は一人で来るでしょう。
 この「一人で」は「来る」にかかると考えますが、「たぶん」は「来る」にかかるのではなく、「でしょう」という「推量のムード」を表す部分にかかると考ええたほうがいいのです。これを、耳慣れない言葉ですが、「陳述の副詞」と言います。つまり、「たぶん・・・でしょう」という形は、「彼は一人で来る」全体に対してある意味を付け加えています。そう言う意味では、「述語の修飾」ではなくて「文全体の修飾」と考えられます。
 もう一つは、文末にもそれを受ける形式がなく、文全体にかかると考えた方がいい修飾語があります。
     幸いにみんな就職できました。
     実を言えば、あの話はうそです。
 「幸いに」は「できました」にかかるとも言えそうですが、「みんな就職できました」全体にかかると考えます。そうしたほうが、
     みんな就職できたのは幸いでした。
という文との関係をうまく説明できるからです。これは「評価の副詞」と言います。
 これらの修飾関係を、述語を修飾する連用修飾と区別して「文修飾」と呼ぶ
ことがあります。これらの副詞は、「11.副詞」の最後のほうでとりあげます。

 なお、「修飾語」ということばは、文の成分としての役割の名前ですから、その形式の大きさは関係ありません。例えば、「副詞・副詞句・副詞節」のどれもが「連用修飾語」になりえるわけです。

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