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 (以下は、少部数印刷した「冊子版」の「あとがき」(一部省略)です。)

 

                                   あ と が き

 刀折れ、矢尽きた感がある。
 当初に予定していた、やりたいと思ったことの多くができないまま、印刷・製本することになった。
 以下、やりたかったこと、できなかったことを書き連ねて、今後の改訂増補の出発点とし、今回の
敗戦の弁としたいと思う。

  1 この辞典の大きな特徴は、項目の配列が動詞の意味分類によっていることである。つまり、考
  え方の方向は、類語辞典の動詞を抜き出して、そこに文型別の例文を多くつけた形である。
    動詞の分類は、独自に考えた。『分類語彙表』やその他の類語辞典の影響はむろんあるが、基
  本的なところから考え直そうとした。これが泥沼だった。最終的には、妥協の連続で、こういう
  形になった。最大の反省点である。今後、他の各種の分類と比較して、また考え直したい。
   動詞を五十音順に並べた形にしていれば、作成にかける時間がもっとゆったりとれたと思うの
  だが、意味別分類の意義は大きいと考えるので、今回はともかくもできたことで満足したい。
    多義語は、それぞれの意味用法別に項目をたてることを考えたが、まったく不徹底である。
  複合動詞もいくつかの用法を持つものが多いのだが、細かく分けることはできなかった。
  2 この辞典のもう一つの大きな特徴である文型の提示も、力不足で不十分なものになった。
  動詞辞典を作ろうと考え始めた当初は、初中級の学習者用の小さな辞典を考えていたので、文型
  も基本的なものだけでよいと考えていたのだが、語数が増え、形が大きくなって本格的なものに
  なってきてしまうと、文型も詳しいものにしなくてはならない。
   文型を詳しく示した動詞辞典として、参考文献の『IPAL』(1987)と『日本語基本動詞用法辞
  典』(1989)があるが、どちらも専門家あるいは日本語教師向けであって、文型が詳しすぎるくら
  いであったので、もう少しかんたんにまとめたものを目標にした。しかし、言うは易し、行うは
  難しで、結局中途半端なものになってしまった。
  意味別に分けることで、類義の動詞が比較しやすくなったこと、特に対応する自動詞と他動詞
  をすぐ近くに置いたことは、文型の理解に何らかの効果があるのではないかと考えている。
  3 上にふれた『IPAL』と『日本語基本動詞用法辞典』の不満な点の第一は、収録語数が少ない
  ことであった。そのため、この辞典ではできるだけ動詞を多く載せようと考えた。特に、日本語
  の動詞表現の体系の中で複合動詞と漢語サ変動詞の果たす役割は大きいものがあると考え、それ
  らを多くとりあげたいと考えた。 
   収録語数が多いことだけは、何とか目標に近づけた。「一般の動詞」というあいまいな呼び名
  の動詞が約1100語、スル動詞(漢語サ変動詞と「擬態語+スル」)が約1050語。複合動詞が約
  2100語で、計4250語ほどである。スル動詞をもっと多く、少なくとも2000語程度にしたかっ
  たのだが、作業の進み方と、残された時間とを考えてあきらめた。
   また、「気になる」や「病気をする」、あるいは「祈りをささげる:祈る」などの連語の形で
  動詞と対立する表現を多くとりあげたいとも考えていたのだが、はたせなかった。次への課題の
  一つである。
 4 収録語数が多くなった分、一語あたりの記述はかんたんなものとならざるを得ない。複合動詞
  とスル動詞は、ごく一部を除いて、簡略な解説・文型表示をし、例文の数をおさえた。
   一般の動詞は、多くの例文をつけるようにしたが、複合動詞とスル動詞の例文の数は、一語に
  二つ、を基本にした。できれば、増補して倍にしたいと考えている。全体の分量はさらに大きく
  なるが、必要なことである。
  5 一つの動詞について、意味用法の解説と文型別用例集を分けた。当初の計画では、解説部分は
  なく、単に例文を文型別に示すだけだった。姫野(2012)『日本語コロケーション辞典』に文型を
  加えたようなものを考えていた。意味の解説も、つけないつもりだった。『日本語コロケーショ
  ン辞典』が次のように書いているのと同じ考え方から出発した。
    ことばを使いこなすには、語の意味を正確に知ること、そして、語と語の慣習的な
    結びつき(コロケーション collocation)を知ることが重要である。従来の国語辞典
    は、このうち「語の意味」を記述することを中心としてきた。母語話者にとっては、
    「語の結びつき」の決まりや詳しい用例は特に必要とされなかったからであろう。
    (中略)
    本書では、意味分析そのものは、ほぼ従来の国語辞典に準拠することとし、記述の
    すべてを典型的な語の結びつき方を示すこと、およびその例文に当てた。
                             (同辞典の「前書き」から)
    しかし、文型の解説はしたほうがよいと考え始め、文型をいくつか立てる際の基準の一つとし
  て意味に触れる必要がある場合が当然出てきた。それなら意味解説も、となり、意味の解説を国
  語辞典を参考にしてつけていったのだが、意味解説は想像以上に多くの問題を含み、これに非常
  に多くの時間を費やすことになってしまった。
     国語辞典の意味解説の問題については、また別に考えてみたい。いくつかの国語辞典の意味解
  説を比較してあれこれ考えたことは、非常に勉強になった。
 6 文型の解説は、およそ不十分なものである。意味と文型の関係を、もっときちんとした形で述
  べることを目標にして、これからまた考えていきたい。
  全体の体系を考えて、その解説を書くべきだが、そこまでいけなかった。寺村秀夫(1982)から
  森山卓郎(1988)、村木新次郎(2000)などの研究をじっくり読み込んで考えたいと思っていたが、
  その余裕はとてもなかった。
   上で、「詳しすぎるくらい」と書いた『IPAL』と『日本語基本動詞用法辞典』の文型表示を一
  つ一つ検討して文型を考えるはずであったが、一部を参考にしたにとどまった。
   どちらの文型・例文もよく考えられたもので、基本資料として書き写した部分は多く、それを
  そのまま用例として使ってしまったものもある。お許しいただきたい。
   どちらも名詞の分類がくわしいのだが、この辞典ではわかりやすさを第一にして、「人」「も
  の」「所」など非常に大まかな分類にした。それだけの中でも、「もの」と「所」の使い分けは、
  当初から最後まで問題であり続けた。ものの動き・移動に関して、その位置を「もの」で示すか、
  「所」とするか、くりかえし迷った。併記した場合もあり、統一されていない。
   場所格の格助詞の示し方も方針が揺れた。「へ/ニ」、「デ」、「カラ」、「マデ」などをどこ
  まで示すか、はっきりした基準がたてられなかった。
   また、「こと」という分類を作ろうとも考えたのだが、今回は見送り、「もの」で代用した。
  文型表示に従属節を大きくとりあげたのは、この辞典の一つの特徴である。『IPAL』と『日本
  語基本動詞用法辞典』でもとりあげられているが、より数多くの動詞に示した。しかし、「こと」
  と「の」の使い分けの問題や「ところ」節のとりあげかた、引用節など、日本語学で研究されて
  きた成果を反映させることができなかった。疑問節にはいくらか注意を払って、これまでの辞典
  より詳しくとりあげようとした。
   迷ったまま不十分で終わってしまったのは、『日本語基本動詞用法辞典』で「述語」とされて
  いるものの扱いである。特にヲ格を主文の要素として残す場合の扱いに迷い、一貫した扱いがで
  きなかった。
  動詞が複合動詞の要素として働く時の用法に注意を払うということも、この辞典でしたかった
  ことの一つだが、不十分なままに終わってしまった。複合動詞の研究では、後項での用法がくわ
  しく研究されている。その成果を簡略に示すことを目指したが、姫野『複合動詞の構造と意味用
  法』などをゆっくり読んで検討する余裕がなかった。また、前項として多くの複合動詞を持つ動
  詞についても注意を払った。一部は詳しく分類しが、一部は動詞例をあげただけで、扱いが一貫
  しなかった。どちらの用法も、いずれ全体を通して検討し、考え直したい。
  7 用例を多く示すというのが、この辞典の当初からの目標であった。その目標はほぼ達成された
  と言ってよいかもしれないが、いろいろと問題点が残されている。いろいろな活用形の使用例を
  示すこと、複合述語を使うこと、反対語を例文の中に織り込むこと、その他多くの抱負があった
  のだが、実際に例文を作る際には、それらをじっくり考慮する余裕がなかった。
  例文の前に、その動詞を含んだ複合述語をいろいろ並べようと考えたが、同じような例しか思
  いつかず、あまり面白味のないものになった。それでも、活用形を並べるだけよりは、その動詞
  の使い方の広がりを示せたと考える。
     副詞などの連用修飾語、その動詞と結びつきやすい名詞の例を多くあげようとした。名詞の例
  は、小内(2010)などを参考にしてもっと多く並べたかったが、一通りあげたにとどまった。
  複合動詞は、例文の数をおさえたが、そのあとに名詞や副詞の例をあげた。これらはほとんど
  小内(2010)から例を借りた。できればスル動詞にもつけたかったが時間がなかった。
  8 この辞典の編集当初から大きな問題になったのが、表記をどうするかという問題である。
  これまでの動詞辞典、コロケーション辞典では、表記は一般の辞典と同じ、つまり標準表記で
  あった。しかし、それでは学習者にとって例文を読むのにかなりの漢字能力が必要になり、学習
  用というねらいは生かされなくなる。漢字の数をおさえてかなで書くことにすると、文が長くな
  り、読みにくくなる。総ルビにするのが一つの解決法だが、手間がかかりすぎる。(その点で、
  くろしお出版の『日本語文型辞典』は素晴らしい決断をしたと思う。)
   我々の当初の方針は、漢字数をかなりおさえるというものだったが、ある時から、例文の漢字
  語句の後にひらがなで読みを入れていくということに方針転換した。ひらがなが妙に多い例文が
  たまにあるのは、前の時の例文を書き直すのを見落としたものである。読みをつけない漢字の範
  囲は、はっきり決めないまま、その時々で判断した。
   漢字の読みをすべての例文につけることは、時間的に無理があると考え、複合動詞とスル動詞
  の例文にはつけなかった。これらの項目を引く読者には、漢字を読む能力を期待してもいいだろ
  うと考えたからである。  

 この辞典の、そもそもの計画の始まりについて書いておく。それは、もう30年も前のことである。
 野田が1984年夏に海外での日本語教育の仕事から帰国したとき、ある出版社で動詞用例辞典の編
集計画が始まっており、野田も加わった。当初のメンバーは、国語、日本語の教師が一人ずつと、東
外大付属日本語学校の英語教師であった加藤弘、それに野田を加えた4人だった。
 動詞項目の選定や、記述の内容など、手探りの状態からスタートし、ともかくも原稿を書き始めた。
 記述の重点は、文型の明示、文型ごとに例文記載、意味の表示なし、補語となる名詞の例を多く挙
げる、テイル形には「継続/結果」の用法を明示、慣用句・複合動詞も例文の形で示す、その他の参
考情報も加える、などである。その形で数百枚の手書きの原稿が作られた。(この原稿は加藤弘が所
有していたはずだが、ほとんどが紛失した。)
 初めは、例文の数も少なく、小さな辞典となるはずだったが、だんだんと欲が出て、例文が多くな
り、1項目の分量が予定以上のものになっていった。特に、加藤弘が複合動詞や「参考」と称する記
事を思いつく限り書くようになり、項目の内容のバランスが崩れてきた。方針の違い、その他の理由
により、加藤と野田以外の二人が離れた。
 ある程度原稿が揃ってきた段階で、ワープロに打ち込み、印刷できる形にした。当時のソフトは一
太郎のVer.2である。これは大部分を加藤が行った。
 始めてから数年たった頃、大修館が同様の動詞辞典を出版予定というニュースが入り、ガクゼンと
した。そしてとうとう、大修館の辞典が出版され(『日本語基本動詞用法辞典』1989.3)、こちらの
出版の話は消滅した。量的にも、内容的にも、格段の差があった。
 一太郎で打ち込んだ、B5版2段組、300ページほどの原稿が残った。ただし、かなりの項目が未
完であり、いくつかの大きな項目は手書き原稿もまだできていなかった。それでも、加藤は何らかの
形で、あとに残せるような形にまとめたかったらしい。
 90年代に入り、原稿はそのまま放置された。
 2007年7月、加藤弘死去。
 2008年2月、野田が原稿の見直しを開始。庭三郎とともに文型・例文を整理し、未完の項目を完
成させて、インターネットにのせることを目標として作業を続けた。
 2012年、野田が勤務先の大学の特別研究費を利用して少部数を印刷・製本することを思いつく。
 2014年3月、『日本語動詞文型用例辞典』の原稿が(一応)完成。

 野田と加藤は、大学は違ったが学生時代(1970年代)からの友人で、東京外語大の大学院で共に学
び、80年代後半は東京外語大の付属日本語学校で同僚として毎日顔を合わせた仲であった。加藤が
東北大へ移ってからは付き合いが薄くなったが、どちらも退職したら、またこの辞典の続きをやりた
いと思っていた。7年前に加藤が突然病気で亡くなり、この辞典の原稿をどうしたものかと考え、退
職後の楽しみを前倒しして始めることにした。結果的に、原稿量が4倍以上になった。
                            2014.3.10
                                  野田 時寛

(追記)
 2014年4月、原稿を印刷・製本した『日本語動詞文型用例辞典』を知人の日本語の先生方にお送りする。
 2014年8月、ネット上に『日本語動詞文型用例辞典』をのせ、公開する。
 
 *この著作は、中央大学の2013年度の特別研究期間・特別研究費を利用して研究がなされ、発行されました。
    特別研究期間をとることを許してくださった中央大学法学部の皆様に感謝します。   (野田記)

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